声量ではなく重量を積み上げよ
一次情報という生存戦略と、広報担当者のアイデンティティ
はじめに:情報の「飽和」と「飢餓」の同居
現代のインターネット空間は、かつてない情報の「飽和」状態にあります。
しかしその一方で、私たちは「信頼できる確かな情報」に対して、
かつてない「飢餓」状態に陥っています。
SNSを開けば無数の意見が流れ込みます。しかし、その多くは
誰が責任を負うのかが曖昧な情報です。
この構造は偶然ではありません。
アルゴリズムによって「反応が取れる情報」が優先表示される仕組みが、
情報の重みよりも拡散力を評価するからです。
1. 数字は信頼を保証しない —— 実例が示す現実
SNS上での「バズ」は、しばしば信頼と誤認されます。
しかし歴史はそれを否定しています。
たとえば2024年の能登半島地震では、
SNS上で多数の救助要請投稿が拡散しました。
その中には、既に救助済みの情報や、事実確認が取れていない投稿も含まれていました。
善意の拡散であっても、古い情報が再拡散されれば、
救助活動の混乱を招く可能性があります。
この事例が示しているのは、
「拡散力は正確性を保証しない」という事実です。
2. 公式情報が“アンカー”になる瞬間
災害時、多くの人はSNSで状況を察知し、
最終的には自治体や企業の公式サイトで確認します。
これは偶然ではありません。
たとえば東日本大震災の際、多くの企業が
自社サイトを通じて営業状況や供給状況を発表しました。
その情報が、取引先や消費者の判断基準になりました。
つまり、公式サイトは「意味の最終決裁機関」として機能したのです。
3. 一次情報とは何か —— 再定義
一次情報とは、「直接体験し、調査し、決定し、その内容に責任を負う主体が明確な情報」である。
例えば、企業の決算報告書。
例えば、行政の公式発表。
例えば、技術開発の詳細なプロセス公開。
これらには共通点があります。
- 責任主体が明確
- 時系列が示されている
- 訂正が可能
- 履歴が残る
これらが揃って初めて「固定点」になります。
4. アルゴリズム社会における構造的問題
現在の情報流通は、
Meta、X、Googleなどのプラットフォーム企業のアルゴリズムに依存しています。
表示順が変われば、事実よりも刺激が上位に来ることがあります。
ここに構造的な脆弱性があります。
自社の一次情報が十分に整理されていなければ、
第三者の比較記事や憶測が検索上位に固定されてしまいます。
つまり、一次情報を整理していないこと自体が、
リスクになります。
5. 災害時に露わになる本質
災害時、情報の価値は「利便性」から「生存」へ変わります。
更新時刻の明示、訂正履歴、責任部署の記載。
これらがあるだけで、人は安心します。
なぜなら、そこに「責任の所在」が見えるからです。
6. 情報発信は、広報担当者のアイデンティティである
ここで最も重要なのは、
情報発信の姿勢そのものが広報担当者の人格を表すという点です。
バズを追うのか。
文脈を守るのか。
短く削るのか。
背景を説明するのか。
その選択は偶然ではありません。
それは倫理観であり、思想であり、職業観です。
一次情報を積み上げる広報は、
時間とともに信頼を蓄積します。
拡散型広報は瞬間的な声量を得ますが、
固定型広報は長期的な重量を得ます。
どちらを選ぶかは、戦略であると同時に、
自己定義でもあります。
結論:情報の固定という社会的責任
- SNSは声量
- 一次情報は重量
- 信頼は時間
流動する情報空間の中で、
動かない事実を固定し続けること。
それこそが、現代広報における最大の責任であり、
アイデンティティなのです。





