イントロダクション
RAWはセンサーが拾った生データですが、各社共通で「カメラ設定」はRAWの見え方・扱いやすさ・階調・色の方向性に影響します。JPEGほど強く反映されるわけではありませんが、写りの傾向・撮影時の判断・編集の安定性は確実に変わります。
■ 理由：撮影中に見ている画面（EVF/背面モニター）が変わる
Canon・Sony・Nikon いずれも、RAWで撮っていても EVF/背面液晶に表示されるのは「ピクチャースタイル／クリエイティブルック／ピクチャーコントロール」などの影響を受けた画像です。
- 彩度強め → 色に気を取られ露出判断を誤る
- コントラスト強め → 影が潰れているように見えて、実際より明るく撮りすぎる
- コントラスト弱め → 明るく見えすぎてアンダーにしてしまう
➡ 現場での判断基準がズレる。特に「一瞬を確実に押さえたい撮影」では、“見えているものが本当の状態を反映していること” が最重要です。
■ 理由：ヒストグラムもメーカー設定の影響を受ける（超重要）
Canon のピクチャースタイル、Sony のクリエイティブルック、Nikon のピクチャーコントロール、どれも RAW には直接焼き込まれなくても、カメラに表示されるヒストグラムはこれらの設定を元に作られます。
- コントラスト強 → 影が実際よりも潰れて見える
- 彩度強 → 赤や黄色が飽和しているように誤解する
➡ 本当は階調に余裕があるのに「飛んでる／潰れてる」と思い込みやすい。白い装束＋暗部＋背景の光など、階調の入り乱れるシーンでは致命的です。
■ 理由：RAW現像の方向性が安定し、作業時間が大幅短縮
RAW編集で自由に作り込めますが、毎回WBを調整したり、毎回彩度・コントラストを作り直したり、トーンカーブを毎回調整したりすると時間がかかり、「日により色が違う」「世界観が揺れる」原因になります。
そこで、カメラ側でベースとなる方向性を決めておくのが効果的です。例えば：
- Canon の Neutral
- Sony の FLAT
- Nikon の Flat
このようにしておくと統一性が出て、仕上げは Lightroom や Capture One で微調整するだけで済みます。写真の世界観が安定しているほど信頼性が高まります。
■ 理由：RAWそのものにも微妙に影響が残る設定がある
各社に搭載されている下記の機能は、RAWにも影響を残すことがあるため注意が必要です：
- Nikon：ADL（アクティブD-ライティング）
- Canon：オートライティングオプティマイザ（ALO）
- Sony：DRO（ダイナミックレンジオプティマイザー）
これらは階調の入り方・明暗の持ち上がり方に差が出ます。記録の質にも関わる設定です。
■ 理由：「イメージに近い状態」で見ながら撮ると瞬間を逃さない
結局のところ、カメラ側で色や明暗の方向性を整えておくと撮影中に迷わなくなります。メーカーごとの傾向を理解して、自分が見たい方向に合わせておくと反応が速くなり、表情や動きへの対応が早まります。
- Canon の肌色傾向
- Sony の自然な階調
- Nikon の落ち着いた色作り
要点まとめ（Canon・Sony・Nikon 共通）
- RAWでもカメラ設定は無視できない
- EVF/モニター・ヒストグラムが設定の影響を受ける
- 露出判断の正確さが変わる
- 仕上がりの方向性が安定し、現像が圧倒的に楽になる
- 動きのある現場で判断が速くなり、撮影成功率が上がる
- 階調が複雑な現場では設定が特に重要
おまけ
OVFとEVF
私は仕事では光学ファインダー（OVF）のカメラを使用しているので、ファインダーには物理的な光景そのものが映し出されます。カメラでの設定はファインダー越しに見える像には反映されません。絞り、被写界深度、そしてレンズの光学的な特性のみです。
ミラーレスカメラでは、EVFも背面液晶も、画像設定が適用された「仕上がりのシミュレーション」が表示されています。彩度を高めに設定していると、EVF内の色も鮮やかになりすぎ、実際のRAWデータよりも色が飽和しているように見えます。コントラストを高めに設定していると、EVF内のシャドウ部が実際よりも潰れているように見えます。
ミラーレスカメラの場合、この「仕上がりのシミュレーション」が露出判断に直接影響を与えます。鮮やかすぎる表示を見て、「このままの色で大丈夫だ」と判断しても、RAW現像ソフトで見ると地味に感じ、結局彩度を上げ直すことになり、現場での設定のメリットが薄れることがあります。多くのプロは、RAW撮影時の設定を「ニュートラル」や「フラット」など、彩度・コントラストを極力抑えたものに設定し、階調が最も広く表示される状態で露出を決めることが多いです。
ヒストグラム
ヒストグラムは画像設定（仕上がり）を元に作られています。ヒストグラムが「潰れ」や「飛び」を示していても、それはJPEGプレビュー上の階調であり、RAWデータにはまだ余裕が残っている場合があります。ヒストグラムはRAW設定でもあっても、カメラが生成したJPEGプレビューに基づいています。特にハイライトの階調を重視する場合、設定の影響でヒストグラムが右端に張り付いているように見えても、実際のRAWデータでは recoverable（復元可能）なことが多いです。設定（コントラスト、彩度など）を強くすると、実際には余裕があるRAWデータでも「白飛び/黒つぶれしている」と誤認するリスクがあることを意識しておきましょう。
なぜスタジオではテザー撮影？
スタジオ撮影ではポートレートでも物撮りでも、カメラをケーブルでパソコンに繋いでいる場合がほとんどです。これはテザー撮影といいます。
テザー撮影では・・・。
大画面・高解像度での確認: 撮影直後に、PCモニターなどの大きな高解像度ディスプレイで画像を確認できます。カメラの背面液晶では見落としがちな、髪の毛一本一本のピントや、細部のノイズ、微妙な構図のズレまで正確にチェックできます。
RAW表示の正確性: Capture Oneなどのテザー撮影対応ソフトは、カメラのJPEGプレビューとは異なる、現像ソフト独自の高い品質でRAWデータを即座にプレビューします。これにより、カメラの設定（ピクチャースタイルなど）によるヒストグラムや見え方の「誤差」を排除した、より現像後の仕上がりに近い画像で判断できます。
→ カメラ上の「潰れ/飛び」警告が、PC上で見るとまだ余裕があることが明確になり、適切な露出判断がしやすくなります。
撮影者だけでなく、クライアント、アートディレクター、スタイリスト、ヘアメイクなど、関係者全員が大きな画面で瞬時に結果を確認できます。
撮影を進めながら、画像の選別（レーティングやタグ付け）を並行して行うことができ、撮影後の作業時間を短縮できます。
PCへのダイレクト保存: 撮影データ（RAWファイル）が、カメラのメモリーカードではなく、PCの指定フォルダに直接保存されます。撮影と同時にバックアップが完了します。
PCソフトからカメラのシャッター、絞り、シャッタースピード、ISO、WBなどを遠隔で操作できるため、特にマクロ撮影や商品撮影などで、三脚に固定したカメラに触れることによる微細なズレを防げます。
テザー撮影は、RAWのポテンシャルを最大限に引き出し、撮影現場での判断の質を最も高めるためのプロの標準的な手法と言えます。
