攻撃を防ぐだけでなく、攻撃元を無害化する時代へ
2026年10月1日から、日本では「能動的サイバー防御(Active Cyber Defense)」の主要な制度が施行されます。
これは、これまでのように「攻撃を受けたら守る」というサイバーセキュリティから一歩進み、重大なサイバー攻撃に対して、攻撃に使われているコンピューターへアクセスし、攻撃を止める「アクセス・無害化措置」まで行うというものです。
■ 何が変わるのか
これまでのサイバー防御は、主に以下のような「自分たちのシステムを守る」対応が中心でした。
- 攻撃を検知する
- 不正な通信を遮断する
- マルウェアを駆除する
- 被害を受けたシステムを復旧する
新しい制度では、重大なサイバー攻撃について、攻撃を受ける側だけでなく、攻撃に使われているコンピューターそのものにアクセスして、攻撃能力を取り除くという対応が可能になります。
これが「アクセス・無害化措置」です。
■ 「無害化措置」とは?
例えば、攻撃に使われているコンピューターにアクセスし、以下のような対応を行います。
- 攻撃に使用されているマルウェアを消去する
- IDやパスワードを変更する
- 攻撃を継続できないようにする
- その他、危害を防止するために必要な措置を行う
つまり、「攻撃を受けたら防御する」から、「攻撃そのものを止めに行く」へという大きな転換です。
ただし、政府や自衛隊が自由に他人のコンピューターへ侵入できるという制度ではありません。
重大な被害のおそれなど、法律で定められた要件を満たす必要があり、一定の場合には独立機関であるサイバー通信情報監理委員会の承認など、所定の手続きが必要になります。
■ 誰が実施するのか
事案の性質に応じて、警察と自衛隊が役割を分担します。
国内の犯罪捜査・危害防止として対応するものは警察が中心となります。
一方、国家を背景とするような高度なサイバー攻撃など、安全保障上の重大な事案については、自衛隊が警察と連携して対処します。
国外にあるコンピューターを対象とする場合などには、外交・安全保障上の手続きも関係してきます。
なお、施行時期には注意が必要です。
2026年10月1日には自衛隊の通信防護措置などが施行され、警察によるアクセス・無害化措置に関する規定は2026年11月までに施行される予定です。
そのため、「2026年10月1日から警察・自衛隊が一斉に攻撃元へ侵入できるようになる」と単純化するのは正確ではありません。
■ 官民連携も強化される
今回の制度は、警察や自衛隊だけの話ではありません。
政府は、通信事業者などの民間事業者と連携し、以下のような仕組みも強化します。
- サイバー攻撃に関する情報を収集する
- 攻撃の兆候を分析する
- 攻撃情報を官民で共有する
- 重大な攻撃に対して迅速に対応する
つまり、民間で発生しているサイバー攻撃の情報を政府が把握し、それを分析して国家レベルのサイバー防御につなげるという体制です。
■ AIも活用される
政府は、膨大な通信情報やサイバー攻撃に関するデータを分析するため、AIを含むシステムの整備も進めています。
サイバー攻撃は人間が一件ずつ確認するには規模が大きすぎるため、AIによる検知・分析 → 人間による判断 → 必要に応じた無害化という方向へ進んでいくことになります。
■ もう一つの重要な柱「通信情報の利用」
今回の制度には、通信情報を取得・分析してサイバー攻撃の兆候を把握する仕組みも含まれています。
こちらはアクセス・無害化措置とは別の重要な制度で、2027年秋までの施行が予定されています。
今回の制度改革は、次のような一連のサイクルを構築するものと見ることができます。
- 通信情報などから攻撃の兆候を把握する
- AIなどを使って分析する
- 重大な攻撃を特定する
- 必要に応じて攻撃を遮断・無害化する
■ これまでとの最大の違い
今回の制度を一言で表すなら、「受け身のサイバー防御」から「能動的なサイバー防御」へということです。
これまでは、
攻撃された
↓
防御する
↓
復旧する
という考え方が中心でした。
これからは、
攻撃を検知する
↓
攻撃元を分析する
↓
必要に応じて攻撃に使われているコンピューターへアクセスする
↓
攻撃能力を無害化する
というところまで、政府のサイバー防御の範囲が広がります。
これは日本のサイバーセキュリティ政策における、かなり大きな転換です。
同時に、政府が民間の通信情報をどこまで取得・利用できるのか、どのような条件で攻撃元へのアクセスが認められるのか、そしてその判断をどのように監督するのかという、プライバシーや権限行使に関する重要な問題も含んでいます。
この制度は単なる「ハッカー対策」ではなく、「国家がサイバー空間でどこまで積極的に活動できるのか」という、日本の安全保障と通信・プライバシーのあり方そのものに関わる制度だといえます。

